幼児がピアノの練習をすることで音程を処理する神経活動が強化され、発話の知覚能力が向上した中国の研究

この研究では、中国の標準語を話す4〜5歳の子供74名を、3つのグループにランダムに割り当てて実験した。

  1.  ピアノの練習を1回45分、1週間に3回、6ヶ月間練習する
  2.  本を読む練習を1回45分、1週間に3回、6ヶ月間練習する
  3.  対照群として、6ヶ月間特に何もしない

練習の効果を測るテストとして、実験開始前と6ヶ月の実験後それぞれの時点で、音程の聞き分けテスト、単語の聞き分けテスト、IQ、注意、記憶能力を測るテストを行った。

  1. 音程の聞き分けテスト:ピアノの音を2つ連続で聞き、その2つの音程が同じか異なるかを答える。音程は全く同じから半音3つ分までのずれを用意する。
  2. 単語の聞き分けテスト:単音節の単語を2つ連続で聞き、その2つが同じか異なるかを答える。異なる場合には、単語は、声調、子音、母音が異なる場合がある。

上記のテストに加え、神経活動の変化も、実験開始前と6ヶ月の実験後それぞれの時点で計測した。
声調や音程の違いを聞き分ける際の神経活動の指標として、特にpositive mismatch response(pMMR)に着目し、脳波計で計測した。
pMMRは子供でよく計測され、大人でのP3aに相当するものと解釈されており、タスクに無関係な刺激への非自発的な注意の切り替えを反映していると考えられている。

3つのグループの、音程の聞き分けテスト、単語の聞き分けテスト、IQ、注意、記憶能力を測るテスト、神経活動の変化は下記のようになった。

  1. 音程の聞き分けテストは、3つのどのグループも6ヶ月間の前後で聞き分け能力は向上しており、グループ間に違いはなかった。
  2. 単語の聞き分けテストでも、3つのどのグループも6ヶ月間の前後で聞き分け能力は向上していた。その中でも、ピアノを練習したグループは何もしなかったグループより高い能力を示した。本を読んだグループの能力は、ピアノグループと何もしなかったグループの中間だった。
  3.  IQ、注意、記憶能力については、3つのどのグループも6ヶ月間の前後で聞き分け能力は向上しており、グループ間に違いはなかった。
  4.  pMMRの振幅は、6ヶ月間の前後でピアノグループのみ、前頭葉から頭頂葉で計測した電極で有意に大きくなっており、特に前頭葉での違いが大きかった

ピアノグループについては、pMMRの振幅の大きさと、単語の聞き分けテストにおいて子音が異なるときの能力向上とが相関しており、単語の聞き分け能力の向上が神経活動の変化によるものと考えられる。

以上から、ピアノの練習を通じて音の違いを処理する神経活動が強化され、言葉の聞き取り能力の向上につながる可能性が示された。

References

Yun Nan, et al., Piano training enhances the neural processing of pitch and improves speech perception in Mandarin-speaking children. Proceedings of the National Academy of Sciences Jul 2018, 115 (28) E6630-E6639; DOI: 10.1073/pnas.1808412115