ここでは、経頭蓋磁気刺激法(transcranial magnetic stimulation; TMS)を用いて改善した研究を紹介する。 TMSは、強力な磁界を掛けることで、脳の特定の部位の神経細胞の活動を活性化・抑制する技術で、頭蓋骨を開けずに非侵襲で行うことができる。例えば、うつ病の治療には日本でも徐々に使われ始めている。

rTMSがADHDの不注意症状を抑える可能性が示唆された

 脳の帯状回-前頭葉-頭頂葉のネットワークが、目的指向の処理や注意が必要なタスクに関わっている。このネットワークのうち、ADHDの患者では背外側前頭前皮質(dorsolateral prefrontal cortex; dlPFC)の活動が低下していることが分かっている。 このdlPFCの活動を持続的に高めるため、皮質の興奮性を高めて刺激後も効果が持続する、高周波での反復経頭蓋磁気刺激(repetitive TMS; rTMS)が刺激方法として選択された。
この研究では、大人でADHDを持つ参加者のdlPFCにrepetitive deep TMSを行い、効果をfMRI、標準診断基準、認知タスクの成績で検証した。 大人のADHDの被験者は、右のdlPFCに刺激を受ける群、左のdlPFCに刺激を受ける群、偽刺激を受ける群にランダムに割り振られ、3週間に渡って15回の刺激を受けた。 被験者は刺激を受ける前、受けた直後、受けてから1ヶ月後に、大人のADHD症状の重症度を計測する質問紙(Conners Adult ADHD Rating Scales; CAARS)と認知機能を計測するMindstreamsを行った。rTMSが神経活動にどのような影響を与えたかを検証するために、刺激前と後とで、fMRIに入りながら複数のレベルのNバック課題を行った。
その結果、主に右のdlPFCに刺激を受けた群で、CAARSの不注意スコア、Mindstreamsの注意および実行機能スコアで有意な改善が見られた。fMRIによる計測では、Nバック課題をしているときの右のdlPFCの活動が有意に上昇していた。 このことから、repetitive deep TMSが、注意に関係する脳のネットワークを変調し、ADHDの有効な治療法となる可能性がある。

ADHD症状を自在に制御できる日は来るか

今回の研究では、receptive deep TMSがADHD特有の注意散漫さを抑えられる可能性を示した。しかしもちろん、ADHDの症状は不注意だけではない。その名前が示すとおり、多動性や衝動性も社会生活に置いて不適応を起こしやすく、時に”治療”が必要となる。脳刺激を用いた行動変容の研究から、ADHDをはじめとする症状が、いかなる神経機序で実現されているのか・改善しうるのか、さらなる研究が不可欠だ。必要な時にだけ、発揮されたくないADHD症状を制御できる日が待ち望まれる。

References

Harmelech, Tal et al. Deep-TMS for ADHD: A randomized sham controlled fMRI study. Brain Stimulation, 2018