幼稚園児の認知能力を高めた研究の手法

この研究では、スペインの5歳の幼稚園児を対象とした。97名の幼稚園児を、以下の3つのグループにランダムに割り当て、認知能力を高める実験を行った。

  1. コンピュータを使った訓練+大人によるコーチング群
  2. コンピュータを使った訓練+回答に対するフィードバックのみされる群
  3. 対照群

コンピュータを使った訓練では、下記を含む14種類のタスクを実行する。

  • 対象を追跡する能力を鍛えるために、画面上の猫を動かして迷路を解くタスク
  • 注意力と弁別能力を訓練するために、複数のイラストからサンプルと同じイラストを選ぶタスク
  • 画面上に、数字の集合が2つ表示され、集合の大きさが大きい方を選ぶタスク。集合に含まれている数字が大きく(例えば9など)、集合の大きさも大きい(例えば数字が10個含まれている)ものを選ぶ場合と、数字は小さい(例えば1など)が集合の大きさは大きい場合の2つがあり、対立条件を認識して判断しなければならない。
  • 抑制のコントロールを鍛えるために、干し草に見え隠れするヒツジとオオカミのうち、ヒツジだけクリックするタスク
  • カエルがハエを食べられるように、びんからハエが出てきたらすぐにボタンを押すタスク(持続的注意を鍛える)

それぞれの群では、タスクの難易度とフィードバックの仕方が異なる。

  1. 大人によるコーチングがある群では、コンピュータを使った訓練をしながら、「やったね!」「きみはうまくやっているよ!」「レベルXまで進んだね!」などの励ましを行う。
  2. 回答に対するフィードバックのみされる群では、訓練をしながら、「やったね!」「正解です!」「間違えたよ!」など、回答に対するフィードバックのみがされる。
  3. 対照群では、同じようにコンピュータを使って訓練をするものの、最初のやさしい3段階の訓練だけ行い、他のグループのようにだんだん難しくなることはない。訓練中、コーチング群と同じ励ましのフィードバックがされる。

どのような認知能力が高まったのか

訓練の前後で、IQ、ワーキングメモリ、抑制コントロールの能力を測るテストを行い、実験群ごとにその変化を比較した。

IQは、流動性知性(fluid intelligence)、言語性知性(varbal intelligence)の2つを計測した。

  • 実験の前後で、抑制コントロールの能力は、大人によるコーチングがあった群と、回答に対するフィードバックのみされる群の双方で有意に向上した。
  • 更に、大人によるコーチングがあった群のみが、流動性知性も向上した。
  • ワーキングメモリは、大人によるコーチングがあった群のみが、統計的には有意ではないものの、準ずる向上があった。

脳活動には変化があったのか

訓練の前後で、3つのグループごとに、対立する条件において判断をするときの脳波の変化を比較した。脳波は下記のようにして計測する。

  • 画面上に、ロボットが横一列に5つ並んだイラストが表示され、真ん中のロボットの形が丸いか四角いかを、子どもたちはボタンを押して答える。
  • 5つとも同じ形の場合と、真ん中のロボットだけ形の違う場合があり、その2つの条件における脳波の波形を比較した。

この脳波波形は、対立する条件において処理を行うときに発生する脳波と考えられている。

大人によるコーチングがあった群について、頭頂における脳波の波形が、ロボットの形が5つとも同じ場合と、真ん中だけ異なる場合とで有意な差があった。

また、個々の子どもたちの脳波の波形の変化量と、向上したIQの値を比較すると、脳波の変化量が大きいほど、IQが向上していた。

子どもたちの認知能力を高める効果的な手法の開発に向けて

本研究では、コンピュータを使った訓練に、大人によるコーチングを加えることで、IQ、ワーキングメモリ、抑制コントロール能力を、一層高めることができる可能性が示された。

また、その効果は、対立する条件において処理を行うときの脳波を強化するという形でも確認がされている。

このような手法の開発と、その脳神経科学による裏付けを組み合わせることで、より効果的に教育を行う技術や仕組みの開発が期待される。

References:

Pozuelos JP, Combita LM, Abundis A, et al. Metacognitive scaffolding boosts cognitive and neural benefits following executive attention training in children. Dev Sci. 2018;e12756.