October 05, 2018

[最新研究紹介]幼少期の楽器訓練は、音楽に関わる脳部位の発達を促進する

東大生の子供のころの習い事は水泳とピアノが多い

東大生にアンケートを行うと、子供のときの習い事のうち、1位は水泳、2位はピアノという結果が何度も得られるようである。これには科学的な根拠があるのだろうか。脳神経科学による知見を探ってみよう。

幼児期に15ヶ月間、楽器を練習することで、脳の構造が変化し運動と聴覚機能が改善した

カナダのMcGill大学のKrista L. Hydeと米国ハーバード大学のGottfried Schlaugのグループの研究によると、幼少期に楽器を練習すると、脳の構造が変化し、運動能力と、メロディとリズムの聞き分けテストの成績が向上することが示されている。

実験では、それまで楽器の練習をしたことがない6歳程度の子どもを対象にした。
– 楽器を練習させるグループでは、週に30分、キーボードの練習を平均15ヶ月間続けた。
– もう一方のグループは、15ヶ月間の間楽器の練習は何もしなかった。

この15ヶ月間の前後で、脳構造、運動能力、聴覚機能がどう変化したかを下記の方法で比較した。
– 脳構造の変化は、MRIのT1画像から分析した。
– 運動能力として指を精緻に動かせるかテストするため、画面上に5-2-4-3-5のように数字の列が表示されるので、それを30秒間でできるだけたくさん、速く、正確に指を動かすテストを行った。
– 音楽を聴き聞き分ける能力をテストするため、5つの音からなるメロディを2つ聴き(その2つはメロディかリズムのどちらかが変えてある)、2つが同じか異なるかを答えるテストを行った。

比較の結果、楽器を練習したグループの方が、前頭葉、側頭葉、頭頂葉から後頭葉にかけてのボクセルクラスタが大きくなり、右の中心前回(precentral gyrus)のように運動を制御している領域、脳梁、右の一次聴覚野で皮質や白質の量が多くなっていた。

それぞれの子どもについて、15ヶ月間の脳の形状変化とテストの成績の相関を計算すると、右の中心前回や脳梁が大きくなった子供ほど指を動かすテストの成績がよく、右の一次聴覚野が大きくなった子供ほどメロディとリズムの聞き分けテストの成績が向上していた。

この結果から、幼児期の15ヶ月間に楽器の練習をすることで、脳の構造的な変化をもたらし、音楽に関連する運動と聴覚能力が改善することが示された。

楽器の練習による子供の脳機能の改善に向けて

子供の脳の構造を変え、運動能力や聴覚能力を鍛えるためには、楽器を練習することが一つの望ましい方法であると考えられる。

 

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References

Musical Training Shapes Structural Brain Development. K. L. Hyde et al., 2009, J. Neurosci.